軽口雑話 第15話 | 日本食はホームシックのトリガー | ![]() |
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ビザ更新のため出国しなくてはならなくなりました。今回はかみさんの歯が傷んだ為日本に一時帰国することになりました。帰国する日が近づくにつれ日本食にばかり行くようになり、だんだん現地食を食べたくなくなってしまいました。おまけにちょっとしたことで腹を立てたり、言い争ったり、何かとそわそわ落ち着かなくなりました。後で考えるとホームシックが原因で日本食はそのトリガーになっていたようです。 その昔の話ですが、モスクワに長期出張していた事があります。そのころのモスクワは共産圏真っ只中で、外国人が駐在するにも多くの制約がありました。駐在員でも市内のアパートには住めません。すべてがホテル住まいでした。またモスクワ市内には西側諸国のレストランはもちろん日本食のレストランもなく、同じ共産圏である中国のレストランすらありませんでした。中国とは中ソ対立中で中国人はいませんでした。市内には北京酒家というホテルがあり、一応北京飯店と言うレストランはありましたが、コックもすべてロシア人で、彼らが作った中華料理は全く食べられたものではありませんでした。食材も日本人が食べられる様なものは全く手にはい入りませんでした。時々ホテルで自炊をするのですが思うようにいきません。米は細長く異物が沢山混入していました。米を炊くときはまず異物(多くは小石)を探して取り除きそれから米を研いで炊きます。それでも食べると時々石がありました。手に入る食材を工夫して何とかやっていました。肉などはひどい物でした。靴底より堅いのではないかと思うほどのすじ肉ばかりでした。ある時日本から来た同僚が日本食の缶詰弁当を差し入れてくれました。日本にいれば缶詰のお弁当と聞いただけで遠慮してしまいますが、こちらで何ヶ月ぶりにみる純日本食です。日曜日、一人で昼食にこの缶詰を開けて、食事をしました。缶詰ですがちゃんとお弁当の様相を呈していてとても美味しそうに見えました。一渡り眺めて食べようとした時スウッと涙が零れたのを覚えています。自分でも何で涙が出たのか分からず狼狽してしまいました。表層意識では平気を装っていましたが、深層意識では何処かで重傷のホームシックに掛かっていたのでは無いかと思います。思いがけず日本食というトリガーが深層意識を引っ張り出したのだと思います。この食事の後、数日間、日本恋しい病にかかってしまいました。 この界隈にも日本食レストランが6軒ほどあります。しょっちゅう日本食を食べていれば別にどうと言うこともないと思います。私達はこちらの食材を使って日本食もどきを食べています。たまに美味しい日本食に出会うとこのトリガーが引かれてしまいます。すると前述のように感情の起伏が激しくなったり、現地食拒否の症状を呈したりしてしまいます。 日本人にとって日本食は潜在意識にあるホームシックのトリガーになりやすいのだと思います。私達だけかもしれませんが....。 |