軽口雑話 第23話 ヘ イ ズ   
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≫ ヘイズ(第23話)

 最近、空が曇っていることが多くなりました。原因はヘイズと呼ばれる何処かの山火事の煙です。水蒸気が靄っているのではなく煙です。
 モスクワ駐在の3年目くらいだったと思います。モスクワの夏は6月から始まります。日が長くなり夏至の頃には、太陽は夜中の12時を中心に3時間ほど引っ込み、直ぐに明るくなります。普通は毎日夕立があって、温度が下がり、暑くても27度くらいでした。
 その年は暑い夏でした。雨が降らないと温度が下がらなくなります。毎日40度をこす暑さが続きました。普段の年は温度が低いので何処にも冷房の設備が無く、毎日砂漠の暑さを体験していました。一カ月くらいたった頃、市内に靄が立ちこめ日に日にひどくなって行きました。初めは、森に霞がたちロマンチックな気分でいました。そのころは共産圏ですから報道管制が敷かれていて何が原因で靄が発つのか分かりませんでした。
 情報はアルメニア放送という口コミだけで、まことしやかなうわさ話があちこちで聞かれました。雨が降らないので水分が濃い霧になったとか、何処かの工場の水系統が壊れて霧になったとかいろいろ有りました。最後にかなり有力な情報として伝わって来たのは、毎日40度を超す暑さで、モスクワ郊外の泥炭に火が点き、くすぶった煙が市内に立ちこめているというものでした。どうやらこれが真相の様でした。
 それを聞いて逃げようのない息苦しさを感じたのを覚えています。それでもしばらくして大雨が降り煙は解消しました。
 その後ソ連から出国して知ったのですが、モスクワ近郊の泥炭の火事を止めるため、軍隊が出動して火の手前に溝を掘って食い止め作業をしたそうです。その時ダイヤモンド鉱脈に当たり、ソ連政府は大喜びしたしたそうです。
 マレーシアのニューストレイトタイムスによると、マレーシアも泥炭地帯があちこちにあります。それに暑さで火が点いて山火事になり、ヘイズが発生する様です。3月の初めの頃の新聞にはマレーシア半島のあちこち6ケ所で火が点いていると書いて有りました。
 ヘイズは、煙ですからモスクワで味わった煙と同じで逃げようがありません。先日マレーシアのF1グランプリを見に行きましたが、やはりヘイズがひどく芝生スタンドに陣取った我々からは、メインスタンドがかすんで見えました。
 1996年には、あまりのひどさに日本人の強制帰国命令がでたそうです。
 昨年まではヘイズはお隣のインドネシアから来るものだと思っていました。でもマレーシアで発生するものも有ることが分かりました。ただし、インドネシアのヘイズは人為的な発生源、マレーシアのヘイズは不可抗力、自然発生的な物であることの違いが有ります。
 いずれにしても健康には良くないので、注意が必要です。マレーシアには大きな欠点は有りませんが、有るとすれば、ヘイズもその一つかもしれません。




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